はじめに
「日本人に糖尿病が増えたのは、食生活が欧米化したから」——そう思っている方は多いのではないでしょうか。
そもそも「食の欧米化」とは、戦後の高度経済成長期以降に食生活が西洋型に近づいていった変化のことで、肉類・乳製品・油脂類の摂取量が増えて米の消費量が減少しました。
実際、国民栄養調査のデータによると、1952年から1995年の約40年間で日本人の脂肪摂取量は約3倍に増加しています。また、2023年の国民健康・栄養調査では、脂肪エネルギー比率が目標量の上限である30%を超えている人の割合が、男性で約37%、女性で約46%にのぼるという結果も出ています。
こうしたデータから、脂質の摂取量が増えた→全体のカロリーが増えた→内臓脂肪型肥満が増えた→生活習慣病としての糖尿病が増えたという流れを思い浮かべる方も多いと思います。
確かにこの考え方は間違いではありませんが、それだけが理由ではありません。
実は昔の日本人¹の生活習慣には、血糖値が上がりにくくなる要素が複数重なっていました。
現代との違いを一つひとつ見ていくと、糖尿病が増えた本当の背景が見えてきます。
管理栄養士の視点から、その理由を詳しく解説していきます。
※¹ 本記事でいう“昔の日本人”とは、食生活が現代と大きく変わる前の戦前(明治〜昭和初期)に暮らしていた人を指します。
現代と違う!昔の日本人が血糖値を上げにくかった5つの理由
食事編
①白米より雑穀・半つき米が中心だった

「昔の日本食」は、茶碗に山盛りの白いご飯と少しのおかずというイメージですが、精白された白米が庶民に広く普及したのは比較的最近のことです。
江戸時代以前はもちろん、明治・大正・昭和初期でも、農村部では玄米を少し精米した半つき米に麦や雑穀(麦・ひえ・あわなど)を混ぜたご飯が日常的に食べられていました。
半つき米や雑穀は白米と比べて食物繊維が豊富で、消化・吸収に時間がかかります。そのため、食後血糖値の上昇がおだやかになります。
■お茶碗1杯(200g)あたりの食物繊維量比較(半つき米や雑穀混合をもとにした推定値)
| 種類 | 食物繊維量(200gあたり) | 特徴 |
|---|---|---|
| 現代の精白米(白ごはん) | 約 0.6g | 精製されて食物繊維がほぼ除去されている |
| 戦前の米(半つき米・雑穀混合) | 約 1.5〜2.0g(推定) | ぬか層が一部残り、雑穀も含まれることが多い |
戦前の米は完全に精白されていないため、現代の白米に比べて茶碗一杯あたりの食物繊維は約2〜3倍含まれていたと考えられます。
たとえ同じ量の「ご飯」を食べたとしても、現代の精白された白米とは血糖への影響がまったく違うのです。
②砂糖や甘いものを食べる機会がほぼなかった
現代の食生活には、清涼飲料水・菓子パン・アイス・チョコレート・ケーキなど、糖質を一気に摂れる食品がまわりに溢れています。特に「液体の糖質」(ジュース・甘い飲み物)は体への吸収スピードが速いため、血糖値を急激に上昇させます。
砂糖は江戸時代まで高級品で、庶民にはほぼ手の届かないものでした。
明治以降になって少しずつ普及し始め、甘いものが庶民の食生活に入ってきたのは戦後〜高度経済成長期あたりになります。
そのため昔の日本人は、日常的に砂糖を摂取する機会そのものがなかったのです。
食の欧米化の問題は「洋食を食べるようになった」だけではありません。砂糖入りの飲み物や甘いお菓子が、毎日の生活に当たり前に入り込んだことも大きな変化の一つでした。
③間食の質、量、頻度が現代と全く違った

昔の日本人が現代と決定的に違うのは、間食に何を食べていたかということです。
当時のおやつといえば、庭でとれる柿・栗・芋などが中心でした。
砂糖を使った菓子は特別な日のものであり、現代のようにコンビニやスーパーでいつでも買えるものではありません。
そして何より大きいのが、「甘い飲み物」がほぼ存在しなかったという点です。
缶コーヒー・ジュース・清涼飲料水といったものはなく、飲み物はお茶か水が基本でした。
液体の砂糖入り飲料は小腸で素早く吸収されるため、固形の食べ物と比べて血糖値を急激に上昇させます。現代人が何気なく飲んでいる甘い飲み物は、血糖値という観点では非常に大きな影響を持っています。
現代人の食生活は3食の食事に加え、缶コーヒー・ジュース・コンビニスイーツ・スナック菓子と、1日を通じて何かを口にしている時間が長くなっているように感じます。
食べ物や飲み物を口にするたびにインスリンが分泌されるため、膵臓は休む間もなく働き続けることになります。
そのため膵臓が疲弊してインスリンの分泌がうまくいかなくなったり、血糖値が下がりにくい状態につながっていきます。
生活編
④体を動かす仕事が当たり前だった

昔の日本人の仕事は、農業・漁業・林業・行商など、体を使うものがほとんどでした。
農民の場合は、昼食や休憩を挟みながら日の出から日没まで1日8時間〜10時間働いていたと考えられています。
明治初期頃の農民の1日あたりのエネルギー摂取量は約2,500〜3,000kcalと推定されています。
また、農繁期の男性の必要エネルギー量は3,200〜3,900kcalにも上るとされ、人力で農作業をしていた人の1日の消費カロリーは3,500〜4,000 kcalにも及んだとされています。
これに対して現代のデスクワーク中心の成人男性は2,000〜2,400kcal程度です。
| 区分 | 摂取カロリー | 消費カロリー |
|---|---|---|
| 昔の農民(繁忙期) | 3,200〜3,900kcal | 3,500〜4,000 kcal |
| 現代のデスクワーク | 2,000〜2,400 kcal | 2,000〜2,400 kcal |
ここで面白いのは、昔の人はたくさん食べていても消費カロリーの方が上回っていた可能性すらあるということです。
食事のあとに肉体労働をしなくなった現代人は、摂取カロリーと消費カロリーがほぼ同じか、むしろ摂取カロリーの方が上回りやすい状況になっています。
食後に体を動かすことは、血糖値の上昇を抑えるうえでとても効果的です。筋肉が糖をエネルギーとして消費することで血液中のブドウ糖が使われ、血糖値が上がりにくくなるからです。
雑穀・玄米中心の食事に加えて、日常的な肉体労働が重なることで、血糖コントロールの面では有利な環境だったといえます。
⑤早寝早起きで生活のリズムが整っていた
昔の日本人はテレビやスマホもなく夜にできることが限られていたため、早寝早起きの生活が当たり前の習慣になっていました。現代のようにスマホやパソコンのブルーライトを夜遅くまで浴びることもなく、自然と体内時計が整う生活をしていたと考えられます。
近年の研究では、この体内時計の乱れが血糖値や糖尿病と深く関わっていることが明らかになっています。体内時計の乱れはインスリンの働きを低下させ、血糖値が上がりやすい状態を招くと考えられています。
特に体内時計が乱れて睡眠が十分にとれなくなると、糖尿病や肥満のリスクが上昇するとされています。
つまり、体内時計が正常に機能していることは、インスリンがきちんと働くためにも欠かせない条件なのです。
現代人にとっては夜更かしや夜間のスマートフォン使用や不規則な食事時間といった習慣が、知らず知らずのうちに血糖コントロールを乱す原因になっている可能性があります。
まとめ
昔の日本人に糖尿病が少なかった本当の理由をまとめました。
- 主食が玄米を少し精製した半つき米・雑穀中心で、血糖値が上がりにくい食事だった
- 砂糖や甘いお菓子自体がほぼなく、食べる機会がなかった
- 間食は果物や芋などが中心で、量も頻度も少ないため膵臓が十分に休めた
- 日常的な肉体労働で、食後に上がった血糖が自然と消費されていた
- 早寝早起きで体内時計が自然と整う生活だった
「食の欧米化」はたしかに一因ですが、それ以上に大きいのは現代の生活そのものが血糖値を上げやすい環境になっていることです。
睡眠不足やストレス、運動不足、そして食べすぎなど、いくつもの要因が重なり合うことで、血糖値は上がりやすくなっています。
食事の内容だけでなく食べ方・動き方・食事と食事の間にどう過ごすかなど、毎日の積み重ねが血糖値に影響しています。
「何を食べるか」と同じくらい、「どう生活するか」を見直していくことが、血糖コントロールにつながってきます(^^)/
■参考文献・出典
・文部科学省「日本食品標準成分表 2020年版(八訂)」
・文部科学省「日本食品標準成分表 増補2023年版」
・厚生労働省「国民健康・栄養調査(2023年)」
・厚生労働省日本人の食事摂取基準(2020年版)
(https://www.mhlw.go.jp/)
・日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン」
・厚生労働省 e-ヘルスネット
(https://kennet.mhlw.go.jp/)

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